日が暮れて辺りが静かになると、庭の木々や道路脇の植え込みで鉦を叩いている奴がいる。
熱心な奴は朝まで叩いている。
昼間も叩いているようであるが、騒音にかき消され鉦の音ははっきりしない。
あるとき、外に出し水をたっぷり与え室内に持ち込んだゴムの木で、真夜中鉦を叩いている
奴がいた。そっと近づくと叩きを止めてしまう。
なんとしても正体を突き止めたいと、ゴムの木下に寝転んでじいっとしていると叩き出した。
しかし、静かに耳を傾けて見るがこの主は何処に居るのか全く見当がつかない。
首を静かに回し、耳の方向を変えてみると全く見当違いの方向から鉦の音が聞こえてくる。
音の方向からは正体を突き止める事は難しいようだ。
仕方なしに眼で一枝一枝を丹念に観察すると、静かに移動する小さな褐灰色の虫を見つけた。
まさしくこれが鉦叩きの正体であった。関東では、8月下旬から叩き始め。10月下旬頃まで
叩いている。10月末頃になると鉦の音もか細くなる。
カネタタキ(鉦叩)は秋(9月)の季語であり、こんな俳句がうたわれている。
目を病めば今宵も早寝鉦叩 小坂蛍泉
鉦叩昼を淋しくすることも 稲畑汀子